病院の危機管理は医療安全管理部門が担う。特に大学病院の危機管理については片手間にできるものではないことは、今まで起こってきた重大な事例が物語っている。 我が国の医療安全の管理は1999年に生じた横浜市立大学の臓器取り違え手術から始まり、2015年の群馬大学で発生した腹腔鏡下肝切除術および開腹手術事故の調査結果を受けて、病院のガバナンス強化がなされ現在に至っている。その間に全国の大学病院の医療安全管理は専従看護師が担っていた時代から、専従の看護師に加え専従の医師や専従薬剤師が担う時代に移り変わってきた。 いうまでもなく、大学で行われる医療はガイドラインに準じたものだけではなく、それを超えた最先端の医療を提供し、それを安全に施行できるように発展させていく使命がある。その中で求められる医療安全管理は、専門的知識が必須となるため、専従の医療者が中心となりチームを作り安全業務を施行する必要がある。重大なアクシデントを未然に防ぐためには、小さなインシデントを積み上げてそこから安全なシステムを構築することが必要なのである。 個々の人間は必ずエラーをするが、それが組織のエラーにまで至らないようにするのが医療安全管理である。この作業は、病気を治療するものではないので、いわば裏方の仕事といっていい。患者の治療には沢山の職種が患者の周りを取り囲み、直接・間接に医療を支えている。この多職種をコンダクトするのが医療安全管理である。
2018年土木学会は「国難」をもたらす巨大災害について委員会報告を発表した。これによれば「東京荒川巨大洪水」は約65兆円、「東京湾巨大高潮」は115兆円の被害額になると予測している。 そしてこの報告では事前対策として十分なインフラ整備により「東京湾巨大高潮」に対して、約2000億円の高潮防御ラインの構築により被害を約60%減災出来るとも試算している。さらに「東京荒川巨大洪水」に加え「大阪淀川巨大水害」「名古屋庄内川等巨大水害」対しては約9兆円の河川インフラ整備により、荒川と淀川では100%、庄内川等では約70%の被害を防げるとしている。これらの試算は「事前防災投資は災害後の対応・復旧費より低い」ことを示している。 世界の政治、経済バランスの中で大きな地位を占めている日本が、世界における存在意義を維持しようとするならば、東京の水害は国難ともいえるような大水害にしてはならない。 今こそ社会システムとして被害を最小限にとどめ、人の命を一人も失わない覚悟を持って東京を守り切らなければ、日本という国体を失いかねないのである。 防災対策をハードとソフトの両立というが、ゼロメートル地帯でもとりわけ木造住宅の多い足立、葛飾、江戸川区では、止むに止まれず緊急に必要な住民の命を守る対策として「広域避難」を打ち出した。しかし広域避難は目前窮迫の対処療法であって、最終的な防災対策ではない。根本的には、ゼロメートル地帯の住民全員が「ここに居れば大丈夫」というという高台まちづくりが地域社会として、国家としての責任なのだ。 鬼怒川の決壊や西日本豪雨では、防災本部が設置された市役所が水没し、警察や消防ばかりでなく、病院までもが住民を守る機能を失い患者を病院から避難させなければならなかった。この事実は衝撃的だった。このようなことが二度と起こらないようにあらゆる防災機関は高台に立地させなければならない。防災機関として市役所、警察・消防、学校、高齢者・福祉施設、病院、公園緑地、商業施設などを、絶対安全高台に配置することで、水害、地震でも防災機関として機能し続けることができるのだ。 さらに河川堤防の高さよりも高い位置に災害時に物資輸送道路としても使える堤防天端の道路を遊歩道やサイクリングロード、花見にも多くの人が楽しみにする桜並木などとして配置することにより、各地域の避難広場を有機的に繋げ、さらなる広域的な非難面積を劇的に確保することができる。避難広場は孤立しないように河川堤防を避難導線に使えるように配置しなければならない。 東京ゼロメートル地帯、「絶対安全高台・命山」計画
こうすることで、これまで防災上ハイリスクな場所として考えられてきたゼロメートル地帯は、一気に高機能でリスクの極めて少ない一等地として生まれ変らせることができるのだ。このゼロメートル地帯「安全高台(命山)」計画は、国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)」の目標である「住み続けられるまちづくり(都市と人間の居住地を包摂的、安全、強靭かつ持続可能にする)」にもかなった計画であり、事前防災対策は事後の復旧復興よりもはるかに効率が良く、経済的にも投資効率が高いと言えるのだ。これは防災対策にとどまらない日本の未来を構築するビジョンなのだ。
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